講座・セミナー

(人文社会科学系若手研究者セミナー) 人文社会科学系若手研究者セミナー

藤岡俊博(滋賀大学)、渡名喜庸哲(東洋大学)、工藤晶人(学習院女子大学)

“イベント詳細”

2013-07-13(土) 14:00 - 17:00
会場
501会議室
東京都渋谷区恵比寿3-9-25 渋谷区, 東京都 150-0013 Japan
501会議室

今回の若手研究者セミナーは、藤岡俊博、渡名喜庸哲、工藤晶人の各氏をお招きし、それぞれの専門性を踏まえた研究成果や現在の関心のありかを、専門外の聴衆にもよくわかる語り口で話していただきます。

藤岡氏は、フランス哲学・ヨーロッパ思想史を専門とし、論文『エマニュエル・レヴィナスと「場所」の倫理』により、第3回東京大学南原繁記念出版賞(東大出版会より刊行予定)を受賞しています。アラン・カイエの『功利的理性批判』(以文社、2011年)の訳者でもあります。

渡名喜氏は、フランス哲学・社会思想を専門とし、藤岡さん同様レヴィナス研究者です。ジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で』(以文社、2012年)、ジャン=ピエール・ルゴフ『ポスト全体主義時代の民主主義』(青灯社、2011年)などの訳書を刊行しています。

工藤氏は、フランス植民地史が専門で、とりわけマグリブを主なフィールドとしています。今年3月に単著『地中海帝国の片影――フランス領アルジェリアの19世紀』(東京大学出版会、2013年)を刊行しています。

哲学・思想・歴史を横断しながら自由に討議する開かれた相互啓発の会にしたいと思います。ふるってご参加ください。それぞれの論者は発表が45分、討論15分を予定しています。

 

 

14:00  開会 三浦信孝(中央大学教授)・廣田功(帝京大学教授)
14:10 藤岡俊博(滋賀大学准教授)

「MAUSS運動と贈与論の展開」
15:10 休憩
15:20 渡名喜庸哲(東洋大学国際哲学研究センター研究助手)

「エマニュエル・レヴィナスと「フランス・ユダヤ人」のゆらぎ――世界イスラエル連盟をめぐって」

16:20 休憩

16:30工藤晶人(学習院女子大学准教授)

「オリエントは他者か――アルジェリアの東洋学文献を読む」

17:30 閉会

 

藤岡俊博(ふじおか・としひろ)

東京大学大学院総合文化研究科修了。博士(学術)。現在、滋賀大学経済学部准教授。『エマニュエル・レヴィナスと「場所」の倫理』が東京大学出版会より刊行予定。おもな翻訳にアラン・カイエ『功利的理性批判』(以文社、2011年)など。

「MAUSS運動と贈与論の展開」:20世紀初頭にマリノフスキー、モースらの民族学者によって主題化された「贈与(gift/don)」の概念は、のちの人類学や社会学で新たなフィールドワークの指針として活用される一方で、哲学の領域でも独自の理論的発展を経験した特異な概念である。特にモースの著名な論文「贈与論」(1924年)は、レヴィ=ストロースの構造人類学に批判的に継承されたにもかかわらず、バタイユやデリダといった現代のフランス思想の潮流に大きな影響を与えた。今日でも、フランスの社会学者アラン・カイエ率いるグループ「MAUSS」(社会科学における反功利主義運動)などの活動を通じて、モース再読の機運が至るところで高まっている。本発表では、おもにカイエの主著『功利的理性批判』(以文社、2011年)を中心に「MAUSS」の主張を紹介するとともに、モースの議論が人文社会科学の両領域でどのような展開を見たのかを横断的に整理することで、贈与論というトピックがもつ面白さの所在を明らかにしてみたい。

 

 

渡名喜庸哲(となき・ようてつ)

東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学・パリ第七大学社会科学部博士課程修了(博士(政治哲学))。現在東洋大学国際哲学研究センター研究助手。主な翻訳にジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で』(以文社、2012年)、ジャン=ピエール・ルゴフ『ポスト全体主義時代の民主主義』(青灯社、2011年)、ピエール・ブーレッツ『20世紀ユダヤ思想家』全3巻(みすず書房、2011-2013年)ほか。専門はフランス哲学、社会思想。

「エマニュエル・レヴィナスと「フランス・ユダヤ人」のゆらぎ――世界イスラエル連盟をめぐって」:本発表では、まず哲学者エマニュエル・レヴィナスのもう一つの側面、すなわち世界イスラエル連盟付属の東方イスラエル師範学校校長という側面に焦点をあてる。そこでの活動・発言を見ていくと、共和主義的な態度を保った「フランス・ユダヤ人」、より正確には「フランス・イスラエリット」としてのレヴィナスという姿が浮かびあがる。だが、レヴィナスが体現していたこの姿は、彼を批判的に継承する世代にあっては乗り越えの対象となる。北アフリカ諸国の独立にともなうセファルディの移入や中東戦争といった背景のもと、フランスにおける「ユダヤ人」のありかたが決定的に変わっていくが、この変容は現在の世界イスラエル連盟の活動からもうかがえる(たとえば、トリガノ、ゴーシェ、シュナペール、ルノーらの『ユニヴェルセルなものとアイデンティティの政治』(2010年))。こうした趨勢をみやりつつ、レヴィナスおよび世界イスラエル連盟の活動を追いながら「フランス・ユダヤ人」の揺らぎについて考えてみたい。

 

 

工藤晶人(くどう・あきひと)

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。現在、学習院女子大学准教授。近著に『地中海帝国の片影─フランス領アルジェリアの19世紀』(東京大学出版会、2013年)。

「オリエントは他者か――アルジェリアの東洋学文献を読む」:東洋諸語をもちいた文献学(東洋学)は、植民地主義の知的支柱として、非ヨーロッパという他者性を構築しつづけた(オリエンタリズム)。あらためて説明を要しないかにみえるこの図式に、ほころびはないのだろうか。本発表では、近年の植民地学再考のこころみと共鳴しつつ、仏領期アルジェリアを題材として考えてみたい。検討対象となるのは、植民地法学の一部門として発展したイスラーム法研究の著作群である。イスラームの異質さという通念に異議をとなえた、いわば傍流の著者たちに着目することによって、思想史からみた19世紀のもうひとつの顔を考察する。