講座・セミナー

(教養講座) 西洋作家の神道観 ――日本人のアイデンティティーを求めて

平川祐弘(東京大学名誉教授)

“イベント詳細”

2012-11-06(火) 2012-11-27(火) 15:00 - 16:30
会場
501会議室
東京都渋谷区恵比寿3-9-25 渋谷区, 東京都 150-0013 Japan
501会議室

日 時:2012年11月6、13、20、27日(各火曜日)15 :00-16 :3

受講料:8,000円(一般)、6,000円(日仏会館会員)

 

明治の開国以来、来日した西洋作家や学者が日本の宗教文化をどのように観察したか、四回にわたり説明したい。いちはやく来日した文壇的に有名な人にはロティ(Pierre Loti)がいる。しかし神道に深い理解を示した西洋人はハーン(Lafcadio Hearn, 1850-1904)とクローデル(Paul Claudel, 1868-1955)である。ロティにならって来日した人なのになぜハーンだけがghostly Japan、フランス語でいう le Japon spectralという日本人の霊の世界に入り込むことを得たのか。共感的理解ができた理由は来日以前にフランス領西インド諸島で、民俗学にいうところの参与観察を身をもって行ない、黒人たちのフォークロアを調べ霊の世界に入り込むことを得たからである。祖先の霊を大事にする日本社会を説明しようとしたハーンはまた、フュステル・ド・クーランジュの『古代都市』(Fustel de Coulanges. la Cité antique, 1864)を援用することで『日本――一つの解明』 (Japan, an attempt at interpretation、1904)を著わした。明治の有力な民法学者たちと同じくハーンも日本に古代地中海世界と同じような先祖崇拝などの霊的世界を認めたのである。神道的な樹霊崇拝や死者崇拝は、その目でもって観察すればロンサールの詩行やアランの語録などにも認められる。平川講演は西洋作家が日本の宗教文化をどう把握したかを語るのが狙いだが、聴衆各位に自分自身の宗教文化的アイデンティティーを自覚させる試みでもある。かつて漢文化の影響下で日本という周辺文化の地域では自国の言語や宗教文化についての自覚はいかにして生じたか、デュ・ベレー(Du Bellay)のいわゆる「母語の擁護と顕彰」の問題を普遍的な「詩論とナショナリズム」の問題として巨視的に考察し、日本が漢文化の次に西洋文化を受容してグロバリゼーションの過程で混淆(こんこう)文化の国となるクレオール化の過程をも説き明かしたい。なおこの講演は『西洋作家の神道観―日本人のアイデンティティーを求めて』 Sukehiro Hirakawa, À la recherche de l’identité japonaise : le shintō interprété par les écrivains européensという平川のフランス語著書がパリのラルマタン書店(L’Harmattan)から出るので、この機会にその内容を日本語で説く試みである。

 

 

 

 

 

平川祐弘 (ひらかわ・すけひろ)

1931年東京に生まれる。1953年東京大学教養学部教養学科卒業。仏伊給費留学生。1964年東大大学院比較文学比較文化課程担当助手。1978年東大教授。1992年東大定年退官、名誉教授。

 

 

 

著書:

 

『和魂洋才の系譜』(平凡社、博士論文)、『ラフカディオ・ハーン―植民地化・キリスト教化・文明開化』(ミネルヴァ書房、和辻賞)、『米国大統領への手紙、市丸利之助伝』(出門堂)、『天ハ自ラ助クルモノヲ助ク―中村正直と『西国立志編』』(名大出版会)、『アーサー・ウェイリー『源氏物語』の翻訳者』(白水社)、『ダンテ『神曲』講義』(河出書房)、『内と外からの夏目漱石』(河出書房)、Japan’s Love-Hate Relationship with the West (Brill)