講演会・トーク

今日のアイヌ:先住民族のアイデンティティと社会文化の再構築(第35回渋沢・クローデル賞受賞記念講演)

講師 リュシアン=ロラン・クレルク(北海道大学)

“イベント詳細”

2019-01-18(金) 18:30 - 20:30
会場
日仏会館ホール
東京都渋谷区恵比寿3-9-25 渋谷区, 東京都 150-0013 Japan
日仏会館ホール
定員 130
参加費 無料
参加登録 要 日仏会館・フランス国立日本研究所ページ
詳細 日仏会館・フランス国立日本研究所ページ
言語 フランス語(逐次通訳あり)
主催 (公財)日仏会館、日仏会館・フランス国立日本研究所
後援 (公財)渋沢栄一記念財団、読売新聞社

 

参加登録は詳細欄の日仏会館・フランス国立日本研究所のサイトからお願いいたします。

(登録受付開始:12月3日(月)11時~)

 

 北海道の先住民であるアイヌの人口は、日本の総人口およそ1億2644万人(2018年10月1日現在、総務省統計局)に対し、およそ2万5千人と発表されている。アイヌは今日、他の多くの少数先住民族と同様、異文化受容によって覆われてしまった自民族の過去を取り戻そうと試みている。アイヌの異文化受容は同化政策を進める国家権力に従うかたちでなされたものである。アイヌの伝統的社会に対する日本の介入はさまざまな水準で危機を招来した。とりわけ日本の価値体系がアイヌのより脆弱な価値体系に与えた衝撃は強烈で、文化的な基盤を粉砕されたアイヌは困難な共存を強いられることになったのである。
 「シャモ」(日本人を意味する現地の言葉)とのあいだで最初の異種交配が行われたのは、こうした葛藤状態においてであった。日本の品物の中にはアイヌに馴染みのものもあった。アイヌはかつてそれらの品々を、威厳を示す目的で用いていたのである。アイヌは再度、日本の品物を代替的に取り入れることで異文化に適応しようとした。しかし「北海道旧土人保護法」によって自由を奪われたアイヌは、完全に同化することを妨げられ、北海道に生まれつつあった新たな社会のなかで周縁的な位置へ追いやられてしまった。
 とはいえ、植民地化がどんなに深く進行しようとも、アイヌ社会の深奥に秘められた、古来より伝わる社会文化的、宗教的な構造が完全に破壊されることはなかった。アイヌが伝統とのつながりを保とうと情熱を傾ける様子や、若い世代のアイヌが新たな伝統となるべきものを生み出そうと腐心している様子を見れば、異文化受容が部分的に過ぎなかったことが理解できるだろう。フィールドワークで得られた知見によれば、アイヌは常に、日本の社会の内部から、また古くより交流を持つ他の先住民族が提供する豊富な文化的オプションの中から、自文化に役立つものを選別し、それを取り入れている。今日、若い世代のアイヌは、自らの特殊性を意識すると同時に、日本的なものが氾濫する中で独自の文化的ハイブリッドを強みとしている。これら若いアイヌたちは、主に儀礼にまつわる記憶に基づいて歴史を再領有するという壮大な取組みを行いながら、アイデンティティの再構築を目指し奮闘している。


講師プロフィール
北海道大学メディア・コミュニケーション研究院特任准教授。フランス語の授業を担当しながら民族学の研究を継続的に行っている。給費留学生として来日し、フランスの社会科学高等研究院(EHESS)で博士号を取得。2018年にはEHESSに提出した博士論文により渋沢クローデル賞を受賞した。
民族誌的観察と文学作品への言及とを組み合わせた手法をもとに、アイヌの社会文化的歴史と諸先住民族のアイデンティティに関するダイナミクスを主な研究対象とする。その最新の民族・史学的な研究領域は、アイヌによるアイデンティティと歴史の再構築、アメリカ黒人文化の日本への影響、日本社会で増大する混血の重要性など多岐に渡っている。